平成7年度は、Si(111)清浄表面を窒素ガスによって真空中でわずかに熱窒化し、X線光電子分光法(XPS)で窒化量を、走査トンネル顕微鏡(STM)で表面のミクロ形状を調べた。狙いは、微小な窒化島を形成することにあり、将来的にはこれを熱酸化のマスクに用いることによりSi量子ドットの形成を目指す。主なパラメータは、窒化温度でる。明らかになった点をまとめると以下のとおりである。 1.熱窒化速度は、500℃付近から徐々に増大し、700℃付近で飽和した後880℃で急激に低下しほとんど窒化が生じなくなることを発見した。この温度は、(111)基板の原子配列が7x7から1x1に相転移する温度に対応しており、窒化の核形成において7x7表面が大きな反応性を有していることを示している。一方、(100)2x1面では、温度の上昇とともに、窒化量は、増大から減少へのなだらかな依存性を示し、表面相転移を伴う(111)面との顕著な違いを示した。 2.Si-2pおよびN-1sスペクトルのケミカルシフトの解析から、表面に形成されたシリコン窒化物は、窒化温度が高いほど完全窒化物(Si_3N_4)に近づく。 3.窒化物の形状は、高温ほど大きく、かつ基板の原子配列を反映した特有の原子配列を示す。これは、以前に、8x8LEEDパターンを示す窒化物として知られていたものである。 4.1x1相転移温度以上では、ステップ端にわずかに窒化物が形成されるのみで、テラス部にはほとんど形成されないことがSTMから判明し、XPSの結果と整合している。
|