本研究は、微細加工が可能な集束イオンビーム(FIB)を用いて薄膜成長基板および薄膜に直接照射する二種類の接合(「基板ダメ-ジ型接合」および「照射ダメ-ジ型接合」)を作製し、特性の評価を行った。 「基板ダメ-ジ型接合」は、FIBで局所的にダメ-ジを与えた基板上に異常成長するYBCOを弱結合部分とする。この接合は、薄膜の厚さに依存して接合の特性が変化する傾向を示し、膜厚の増加に伴い、均一な接合状態から不均一な接合状態を示す特性へと変化した。膜厚による接合表面の変化を観察した結果、薄膜の成長に伴ってダメ-ジ部分の両側から正常に成長したYBCOによって異常成長したYBCO部分が縮小され、膜厚300nmにおいては、接合上部でマイクロショートが形成され、接合部分が不均一となっていることが示されている。 「照射ダメ-ジ型接合」は、YBCO薄膜に直接イオンを局所的に照射してイオンの通過時に与えるダメ-ジによる弱結合部分を作製する。この接合は、低温においてflux-flow素子的な電流電圧特性を示し40K以上ではRSJモデルに従う特性を示している。シャピロステップは接合の臨界温度付近まで観察され、磁場特性はフラウンフォーファー回折像に非常に類似した特性を示している。イオン照射によるダメ-ジ部分の電気特性はイオンの照射量に比例して臨界温度が低下した超伝導体の特性から金属的な電気特性に変化した。よって、接合には、金属的な層(N層)およびN層の周囲の非常に狭い領域に超伝導性が低下した層(S層)が形成され、低温では実効的な接合長が減少し、マイクロショートが存在しやすい接合部分が形成され、接合の臨界温度付近では、均一なN層が形成され近接効果による特性が示されていると考えられる。
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