LSIの開発においては、半経験的なモデルによる現在の半導体プロセスシミュレーションに代わり、普遍的な物理モデルに基づいたシミュレーションの構築が必須の課題である。本研究では、点欠陥に基づいた不純物拡散のプロセスシミュレーションの構築のため、空格子点や格子間原子などの点欠陥の様々な物理定数を実験的に決定し、これにより拡張性のあるプロセスモデルを確立し、そのシミュレーションへの適用を目的とする。平成7年度では、シリコン基板上にシリコン窒化膜(Si_3N_4)を堆積させた構造を用いて、窒化膜応力が不純物(ボロン)拡散に及ぼす影響を調べ、応力により発生した歪みと点欠陥濃度の関係を明らかにした。具体的には、窒化膜厚、熱処理温度を変化させ、二次イオン質量分析装置(SIMS)によりボロン濃度分布を測定し、熱平衡濃度に対する空格子点濃度の増加分を評価した。同時に、レーザスキャニング法により、窒化膜およびシリコン基板応力を測定した。窒化膜厚依存性から、弾性変形の範囲では、基板の弾性圧縮歪みが増加するに伴い、窒化膜下領域では、空格子点濃度の増加分が増加していった。また、熱処理温度依存性から、基板の弾性圧縮歪みがほぼ一定のときには、窒化膜下領域では空格子点濃度の増加分はほぼ一定であった。以上の結果から、窒化膜下領域では、窒化膜応力により基板中に発生した弾性圧縮歪みが、空格子点濃度を増加させ、このため空格子点と格子間原子の再結合により格子間原子濃度が減少し、ボロンが減速拡散することが明確になった。
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