最終年度にあたる本年度では、高誘電率かつ光通信用波長域で透明な材料としてシリコンを選び、微小針状構造の形成条件を追求した。その結果、電子ビーム斜め蒸着と化学エッチングの組み合わせによる、配向した針状構造シリコン厚膜の作製に成功した。得られた膜の偏光分離性能は、ルチルや方解石などのそれよりも約2倍の高特性を有することが確認できた。本年度の主な成果は以下のとおりである。 1.電子ビーム蒸着法を利用した斜め蒸着法において、蒸着中にアルゴンガスを導入して0.2mtorrの高ガス圧下で成膜されたシリコン膜が比較的疎な構造をしていることを明らかにした。 2.電子ビームによる斜め蒸着膜をフッ硝酸でエッチングすることにより、斜めに配向した微小な針状シリコン膜が得られることを見いだした。この膜の偏光分離特性を波長1.55μmのレーザ光で測定した結果、10度の偏光分離性能を得た。これは現在使用されている偏光分離素子の約2倍の性能である。 本研究で開発された配向した針状シリコン膜は、偏光分離特性・形状・加工性ともに自然結晶よりはるかに優れているため、近い将来に実用に供される可能性が高い。特に、作製法自体は、いたずらに高価な装置を必要とせず、真空蒸着という極めてありふれた装置で、条件さえおさえれば簡単に素子が作製できる点も重要な特長の一つである。近い将来の実用化に向けて残された課題は、厚膜の低充填率化による偏光分離特性のより一層の向上と厚膜の吸収係数の低減化である。
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