本研究は、パルス性電磁波の発生源として重要な静電気放電を取り上げ、放電源の近傍電磁界を表す適切なパラメータおよび電磁界センサの特性を定義し、それらを高精度で測定できる手法を開発し、電磁界の測定結果から静電気放電による高速パルス性電磁波の発生メカニズムを解明することを目的としている。 本年度は、放電初期に電極間に流れる電流(初期放電電流)が形成する微小ダイポールと、放電路が形成された後に流れる電流(短絡経路電流)からなる2放射源を、静電気放電によるパルス性電磁波発生の新たなモデルとし、発生する電磁界から初期放電電流、短絡経路電流を推定した。また、短絡経路電流と、実際に測定された電流を比較検討することにより、このモデルの妥当性を検証した。上記のモデルを用い、電子回路の最小構成要素である両端に負荷が接続された伝送線路について、静電気放電によって発生する出力電界センサの特性である複素アンテナ係数を測定するための手法を電磁妨害波計測用アンテナの特性測定に応用し、新しい測定手法を開発した。 なお、この研究過程で、金属電極を接近させ衝突させる実験を行ったが、0.1mm以上の間隔で固定された物体間のESD電磁界が電子回路に与える影響よりも、衝突によって起こるESDによる影響の方が大きくなる場合があることを確認した。これまで、ESD対策やイミュニティ規格などにおいては、固定物体間ESDを対象として考えられている。しかし実際には、電子機器周辺で起こるESDは、固定物体間よりも物体の衝突によって起こることがほとんどであるから、電子機器の信頼性向上のために、衝突ESD電磁界の発生メカニズムの解明が必要である。この問題を電磁界計測によって解明した例はなく、平成9年度までの科学研究費による研究の成果を有効に活用し、系統的な研究を行なう必要がある。
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