研究概要 |
洪水から沿岸沿いの住宅や畑地を守るために古くから水害防備林(水防林)が沿岸沿いに植えられ,保存されてきた.近年では,河道内にある樹木帯は流れの抵抗になるために伐採され、川らしさが失われつつある.吉野川と江の川について洪水災害と水防林変遷の関係を調べた結果,治水のために水防林が伐採され,急減していた.良好な河川環境を維持するために,水防林の残し方や治水上の効果を検討を行った.水防林の効果は,河道の平面形状に対する水防林の配置,高水敷上の水深、低水路内の流れの速さ等によって変化し,河床形状も水害防備林によって影響を受けた流れによって変化する.本研究では,任意の河道の形状に対して適切な水害防備林のあり方と,水理学的にみて望ましい高水敷と低水路の間の流れの平面構造について明らかにした.低水路が蛇行している福断面河道では,低水路と高水敷の間で水流の交換が生じ,複雑な流れとなる。さらに,水防林がある場合における高水敷と低水路の水の出入りの量が抑えられたり,流れが分離されたり,かつ水防林の近くの河岸近傍での流速が非常に遅くなることが明らかとなった.高水敷上への流れの乗り上げや低水路への流れの落ち込みを十分説明できる数値モデルを開発し,これを用いて実河川で一般的に見られる堤防法線と低水路法線の位相が異なる河道の流れの解析を試み,実河道における流れを再現できることを示した.また,水防林の一部を連続的に伐採してしまうと,その部分で大きな流速が生じて,その近傍の水防林が流出してしまう危険性が高いこと,これにより被災を受けた部分を伐採・護岸化するとさらに次の部分が被災して次々と水防林がなくなっていく可能性があることが分かった.一方,連続的に伐採するのではなく,水防林の一部を伐採することによって,水防林は,水制のように河岸近傍の流速を遅くするだけでなく,湾曲部の対岸側では流れを一様化して二次流を弱め,河床変動を抑制することが明らかとなった.今後はこのような治水効果を水防林に含めて総合的に水防林の価値を評価していく必要性があることを示した.
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