前年度構築した映像編集技術によって得られた画像を用いて、本年度より本格的な実験を開始した。実験映像は周期、変位の双方からも完成度の高い映像となっているので、まず建築物の基本振動の内、水平並進振動についての視覚、体感の両面からの知覚閾の実験を行った。実施した実験条件の周期成分は、建築物の高層化を考慮に入れ、5〜10秒としている。結果としては予備実験で立てた仮説に沿った傾向が得られ、並進振動を体感により知覚する場合は加速度と対応関係があり、視覚により振動を知覚する場合は速度と対応関係があることが確認された。また、今回の実験条件の周期範囲においては、視覚知覚よりも体感知覚の方がより小さな振動で知覚閾に達している。しかし、周期が長くなるにつれ、その差は小さくなっていく傾向もみられる。 次に、ねじれ振動についても、視覚知覚、体感知覚の両面から実験を行った。さらに、ねじれ視覚知覚実験においては、遠景、近景の2条件の実験映像を準備してその違いについての考察も行っている。視覚知覚実験における遠景、近景のそれぞれにみる振動知覚の傾向は両条件とも並進振動と同様に角速度、すなわち速度因子との間に対応関係がみられており、体感における振動知覚の傾向は角加速度に対応している傾向が見られる。視覚知覚実験における遠景と近景の違いについては、遠景の方が近景よりも小さな振動で知覚閾に達している。また、ねじれ振動においては体感知覚よりも視覚知覚の方が小さな振動で知覚閾に達していることからも、高層建築物振動の許容値指針を角速度により設定することの妥当性が確認された。
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