今年度は、『大東輿地図』の書誌学的な検討と、その描写方法の形成について明らかにすることに研究の力点を置いた。具体的には、日本各地の図書館に所蔵されている『大東輿地図』と関連資料の収集につとめ、そこで得られた資料をもとに描写方法の形成や思想的背景について基礎的な分析を行った。それによって以下のような知見を新たに得ることができた。 第一に、国会図書館地図室、筑波大学図書館、東洋文庫などには、植民地時代に収集された『大東輿地図』などの、現在韓国でも入手困難な、地誌関係の資料が数多く所蔵されていることが明らかになった。とりわけ筑波大学図書館にて所蔵を確認した『東輿図』は韓国においても稀な、『大東輿地図』かあるいはその原稿を筆写したものと考えられ、今後の『大東輿地図』研究に重要なもきである。 第二に、『大東輿地図』の特有な、白頭山からの稜線を全国に繋ぐという方法は、すでに18世紀に全国地図にあらわれはじめていたが、それを大縮尺の地図で詳細に行ったのは『大東輿地図』であることが明らかになった。そこから、その描写方法は、朝鮮半島において風水地理説、あるいは「気脈」の思想が一般に広まり始めた時期と一致するのではないかとの仮説を得た。またこの方法は筆写体である『青丘図』をもとに『大東輿地図』を版刻する際にデザインされた方法であるとも考えられる。
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