本年度は、昨年度行った『大東輿地図』に関する書誌学的な事項と描写方法の形成に関する検討を引き続き行うとともに、その描写方法の特性とその背後にある朝鮮半島の自然観を明らかにすることを研究の主眼とした。具体的には、昨年度日本の図書館で収集した『大東輿地図』を用いて、その描写方法の特性について分析をすすめるとともに、韓国のソウル大学校奎章閣に赴いて文献収集を行い、奎章閣所蔵の各種資料との比較検討から、それらの資料の作成年代についてさらに研究を深めた。それにより以下のような知見を新たに得た。 第一に、昨年度筑波大学図書館において発見した、大東輿地図と類似の手法で描かれた『東輿図』が、掲載されている地名などから考えて『大東輿地図』作成以前のものであり、韓国においても非常に稀で重要な資料であることが明らかになった。またこの『東輿図』の描写方法・記載事項をさらに詳細に検討することによって、『大東輿地図』作成までの歴史的な経緯がより明らかになると思われる。 第二に、『大東輿地図』に特有の尾根線と谷線を詳細に表記するという描写方法を、日本統治期の陸地測量部作成の朝鮮半島地形図と対比することによって検討すると、集水圏・視界領域などを読みとることのできる、極めて地形や景観を把握しやすい手法であることが明らかになった。また同時に、それをより具体的に検討するために大東輿地図で描かれた朝鮮半島の一地域を取り上げ、事例研究を行う必要性を感得するに至った。
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