本年度は、Au-7.45〜50.0at%Cd合金の単結晶を用いて、マルテンサイトの時効効果及びゴム弾性的挙動を種々の手法を用いて研究し、以下の結果を得た。(1)種々の温度で時効時間の関数として引張試験を行い、それらのデータの解析から時効の活性化エネルギーとして0.44eVという値を得た。これはマルテンサイト中での空孔の移動の活性化エネルギーと考えられ、これは時効効果及びゴム弾性的挙動にとって空孔による拡散が決定的な役割を担っていることを端的に示すものである。(2)応力下でマルテンサイト単結晶を作製し、単結晶でも時効効果やゴム弾性的挙動の現われることを明らかにし、この現象が界面効果ではなく、体積効果であることを明らかにした。その一方で、multi-variantsの試料の方が時効効果は早く進むという結果を得た。(3)以前我々が得た、時効による平均構造の変化はないという結果及び上記結果から、ゴム弾性的挙動の起源としては、最近丸川等によって提唱されたshort range orderの発達あるいは鈴木によって提唱されたstrain dipoleモデルのいずれかである可能性が高い。このためX線4軸回折計と高感度のイメージング.プレートを用いて逆格子空間の種々の断面の時効による変化を測定したが、short range orderは検出できなかった。このこと並びに上記活性化エネルギーの値は鈴木のモデルを示唆しているように思えるが、微妙な問題であり、更に詳しい研究が必要である。(4)マルテンサイト変態と空孔という観点からは以下のような興味深い結果を得た。高温からの焼き入れによって導入された過剰空孔は、マルテンサイト変態を抑制するが、空孔のanneal outによって変態温度は上昇することを見出した。この現象を説明する機構を提唱した。
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