研究概要 |
ゴム弾性的挙動の機構を解明するため、昨年度に引き続き各種の手法を駆使して、主にAu-Cd合金を対象に、この特異な挙動の特徴を調べた結果は以下の通りである。(1)strain dipoleモデルの可能性を探るためマルテンサイト状態での内耗を測定し、双晶境界移動に関係するbroadなピークを見出したが、strain dipoleに対応する緩和型のピークは見出すことができなかった。(2)X線4軸回折計とイメージング・プレートを用いて逆格子空間の各断面の散漫散乱を測定し、γ'_2マルテンサイトの<100>方向に強い散漫散乱を見出したが、この散漫散乱の時効による変化は検出できなかった。(3)上記合金の他、Ti-Ni合金の時効効果も調べたが、この合金では時効効果もゴム弾性的挙動も存在しないことが明らかになった。これはこの合金の融点が高く、室温附近で空孔が殆ど存在しないためである。このことは、ゴム弾性的挙動にとって、空孔の存在が本質的に重要であることを示すものである。(4)ゴム弾性的挙動を説明する新しいvacancy reordering modelを昨年12月ボストンで開かれたMRS国際会議で発表した。 以上が本年度の研究結果であるが、昨年度及び本年度の研究結果を通し、ゴム弾性的挙動の基本的特徴を明らかにすることができた(別添の研究成果報告書参照)。これ迄この現象を説明するモデルとして9つのモデルが提唱されているが、上記基本的特徴にてらし合わせて考えると、これらのモデルの中で生き残るのは以下の三つのみである。i)shortrange order model(丸川、土谷)、ii)strain dipole model(鈴木)、iii)vacancy interaction orderin,g model(任、大塚、本研究)。しかし、これら三つのモデルはいずれも欠点を持っている。この問題に突破口を開くためには、欠陥濃度(空孔濃度及び反構造欠陥)の組成依存性の直接測定が必要であり、現在この方向で鋭意研究を進めている。一方上記三つのいずれとも異なる新しいモデルも検討しており、この問題の解明されるのもそう遠くないと考えている。
|