Al-Pd-Re準結晶の電気物性の測定を通して、高低抗率などの準結晶の特異な物性の起源を明らかにすることを本年度の研究目標とした。 アーク溶解によって作製した組成の異なるAl-Pd-Re母合金を切り出して、一部は単ロール法により急冷リボンを作製し、一部はバルクのまま、熱処理を行い、単相の正20面体準結晶を得た。試料の評価には、X線回折、EPMA分析を行った。単相であることを確認した試料につき、15kから室温までの温度範囲でて電気抵抗率、Hall係数、4Tまでの磁場範囲で磁気抵抗の測定を行った。 Al-Pd-Re準結晶ではリボン、バルクを問わず抵抗率の高い試料に置いては、Hall係数の値(|R_H|)とその温度変化(△R_H)が小さくなっている。このことは1キャリヤの式(R_H=1/ne)では理解できず、バンド伝導の立場からは、2種類のキャリヤを考慮に入れないと説明がつかない。(R_H=(pμ_h^2-nμ_e^2)/e(pμ_h+nμ_e)^2)このとき温度変化のない、小さなHall係数は、電子と正孔の寄与が相殺し合ったものとして理解される。また伝導率の温度依存性はべき型(σ=σ_0+AT^σ)であり、以前リボン試料で得られた振舞を再現する結果となった。この特異な温度依存性は正20面体相固有の物性であると考えられる。これは、準結晶の臨界的な波動関数が直接に反映された状況であると考えられ、これまで我々は、ホッピング伝導を提案してきたが、今回、パーコレーションからのアプローチでも、ホッピング伝導率にこのようなべき型の温度依存性が得られることが分かった。
|