組成の均一でしかも良質なAl合金準結晶を作製し、その電子物性を評価することで、準結晶の電気伝導機構及び高抵抗率の起源を明らかにすることを本年度の研究目標とした。 様々な仕込みで組成で原料粉末を調合・攪拌し、プレスしたものをアーク溶解した後、940℃で12時間熱処理を施すことにより、組成ずれの少ない、均質な準結晶を作製した。単相度の評価には、粉末X線回析を行い、組成・均質度の評価には、ICP発光分析を行った。電気物性としては、約1.5Kから室温までの温度範囲で電気抵抗率、Hall係数、磁化率、12Tまでの磁場範囲で磁気抵抗の測定を行った。さらに空孔サイト量の評価として陽電子消滅の実験も行った。 電気物性の測定の結果、良質なAl合金準結晶において金属-絶縁体転移が観測され、その伝導機構が所謂、アンダーソン局在の枠組みで議論できることが明らかとなった。すなわち、低温における伝導率の温度依存性は、電子間相互作用による相関ギャップの形成によって記述できること、温度上昇に伴う伝導率の増大は非弾性散乱による局在の破壊によってもらされることなどが明らかとなった。さらに高温域は、バンド間遷移が効いており、熱励起されたキャリヤが伝導率を増大させていることが解析の結果明らかとなった。 高抵抗率の起源としては、Alと遷移金属との強い結合が大きな役割を果しており、遷移金属濃度を増大させると抵抗率に飛躍的な増大が認められた。粉末X線回析実験の結果と併せて、Alと遷移金属の結合は、規則ピーク強度の増大や準格子定数の増加によって観測された。以上のことより、準結晶の高抵抗率は、Alと遷移金属間に選択的な結合が生じることによって、金属から共有結合物質に転換することによって起きるものであると結論された。
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