本年度は耐熱性を維持しつつ、高価な重希土類元素(GdあるいはDy)の添加量を減らし、比較的安価なNdで置換可能な組成領域を探索することを目的として、10mass%以下のGdあるいはDy、7mass%以下のNdを含む組成領域のマグネシウムリッチ側の三元状態図を作製した。その状態図から、共晶温度直下でマグネシウム固溶体単相となる3mass%以下のNdを含む合金の時効特性を調査した。また、それらの結果から、Mg-5〜10mass%Gd(Dy)-3mass%Nd合金に結晶微細化剤としてZrを添加した四元合金を溶製し、それらの時効特性、機械的性質および耐食性を調査した。(1)DV-Xαクラスター法による電子構造計算の結果、Yおよび希土類元素が添加元素として有効であると推測された。本検討合金の内、3mass%Ndを含む三元合金は535℃においてほぼマグネシウム固溶体単相組織となり、温度の低下に伴い合金元素の固溶限は大幅に低溶質濃度側へと移行する。そのため、本検討合金の中で合金元素量の最も少ないMg-3mass%Gd(Dy)-3mass%Nd合金でさえ、250℃でも大きな時効硬化を示すようになる。(2)四元系合金の時効特性を調査し、透過型電子顕微鏡により時効析出物を詳細に検討したところ、本系合金の時効過程はマグネシウム固溶体→β″(DO_<19>型結晶構造)→β′(bco)→β(fcc)で、時効硬化はβ″相により引き起こされることがわかった。(3)本系合金の内、Mg-10mass%Gd-3mass%Nd-0.5mass%Zr合金の250℃における引張強さおよび耐力はそれぞれ290および260MPaと最も高い。これらの値はWE54A耐熱マグネシウム合金の値を大きく上回り、AC8A耐熱アルミニウム合金の2倍以上に相当する。(4)本系合金の耐食性は極めて良好で、AZ91D耐食マグネシウム合金に匹敵する。これは、XPSにより表面分析した結果、希土類元素の添加により塩素イオンが存在する腐食環境下でも合金表面にMg(OH)_2が安定な保護膜として存在し得るようになるためであることがわかった。
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