研究概要 |
本研究では既存のアルミニウム合金およびマグネシウム合金の耐熱性および耐食性を上回り,たとえば,自動車部品の中で最も熱負荷のかかるピストンおよびその周辺部品に使用可能なマグネシウム合金の開発を目的として,重希土類元素を含むマグネシウム合金の状態図の作製,時効特性,熱間加工性および耐食性の評価ならびに熱間加工による組織の制御を行った。最終的にピストン形状まで鍛造し,その鍛造材の引張特性も評価した。(1)Mg-Gd,Dy-NdおよびMg-Gd-Y系合金のマグネシウムリッチ側の固溶限は温度の低下に伴って大幅に低濃度側に移行する。その結果、合金元素量の少ない合金でも250℃で大きな時効硬化を示し,6%以上のGdあるいはDyおよび3%以上のNdあるいはYを含む合金の引張強さは既存耐熱マグネシウム合金を上回る。(2)本系合金の時効過程は過飽和マグネシウム固溶体→β"(DO_<19>)→β'(bco)→平衡相β(Nd系:fcc,Y系:bcc)で,顕著な時効硬化はβ"相の析出により引き起こされる。β"相は熱間圧延あるいは熱間鍛造により導入された転位上へ優先的に析出し,粒界近傍の無析出帯は少なくなる。その結果,強度および伸びとも大きく向上する。(3)熱間鍛造前の均質化処理温度を固溶限温度直上と低くすることにより,結晶粒粗大化を制御し,残留化合物を少なくすることが可能となる。それにより,均質化処理材から直接ピストン形状まで鍛造可能となる。本系合金の内、Mg-10%Gd-3%Y-Zr合金のピストン鍛造材が最も強く、250℃における引張強さおよび耐力はそれぞれ290MPaおよび250MPaである。これらの値は既存耐熱マグネシウム合金を大きく上回り、耐熱アルミニウム合金の2倍強に匹敵する。(4)本系合金では希土類元素の添加により塩素イオンの存在する腐食環境下でも合金表面に微細なMg(OH)_2が安定な保護膜として存在し得るようになるため,耐食性は極めて良好となる。
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