研究概要 |
本研究は、極限材料の一種であるクライオジェニック(極低温)領域で使用可能な先進複合材料を開発することを最終目標とし、そのために必要な基礎的知見を集積し、材料設計の指針を与えることを目的とする。初年度は、現在まだほとんど知られていない高分子材料の化学構造と低温特性の関係について検討した。まず、典型的なエンジニアリングプラスチックの一つであるポリフェニレンスルフィド(PPS)を試料として、熱処理温度(200,220,275℃)を変えた3種類の2軸延伸フィルムについて、諸特性におよぼす温度の影響を調査した。77Kにおける引張り試験の結果は、275℃で熱処理したフィルムの機械的特性が他の2者に比べて著しく優れることを示した。また、低温領域における線熱膨張係数の変化も275℃のフィルムがもっとも小さいことが認められた。。誘電測定の結果は、100〜200Kの温度領域に幅の広い緩和ピークを示したが、熱処理温度による変化は観測されず、この緩和は低温特性に直接的には寄与していないことが確かめられた。これらのフィルムの小角および広角x線散乱測定の結果から、3種類のフィルムにおける結晶ドメインの大きさはほぼ同じであるが、275℃で熱処理したフィルムは適度に架橋した構造をもつことが認められ、これが優れた低温特性を示す要因の一つであると推論された。高分子材料の化学構造と低温特性との関係については、一般に、結合角を変化し得るような主鎖骨格をもつポリマーがより優れた低温特性を示すように見受けられるが、この理由は分子鎖のセグメント運動が凍結された場合においても、変形が主として高分子鎖中に存在する原子価角の変化によって保持されるためであると考えられ、これはクライオジェニック高分子材料の基本骨格を設計するための有用な知見である。
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