鉄の飽和磁化(2.0テスラ)をはるかに越える3.0テスラの巨大飽和磁化を持つとされるFe_<16>N_2の規則相(α″相)、および同様な結晶相の存在の可否を(Fe、Co)-(B、C、N)について調べた。後者については、B、C、NがFe、Coの格子間に侵入し、特にFeについては、マルテンサイト相が形成され、飽和磁化の増大が見られた。しかし、α″に相当する規則相は得られなかった。そこでFe_<16>N_2の規則相の形成過程と、巨大飽和磁化の確定を中心に研究をすすめたところ、以下のような結果が得られた。1)Fe_<16>N_2の組成のエピタキシャル膜について、α″の生成割合の厳密な測定により、規則相の飽和磁化は、2.4〜3.0の広い範囲に分布する事が判明し、その大きさを決める要因は、規則相のわずかな歪みであり、様々な条件で作製した試料、およびこれまでに多数の研究機関で発表されてきたバラつきの大きい結果を格子体積で整理すると、一義的に記述できることがわかった。2)この飽和磁化の変化は、fcc鉄で発見されているhigh spin、low spinで説明できるものであり、Fe_<16>N_2の形成過程、崩壊過程、格子歪みとα″相の安定性等を詳しく調べた結果、この規則相は、Fe_<16>N_2のマルテンサイト相がfccのγ相に崩壊する途中の過程で歪みを受けて形成されるものであって、fcc構造と考えてよいことがわかった。以上の結果から、Fe_<16>N_2規則相の巨大飽和磁化は実際に存在すること、また、その安定化には、歪みの制御が重要であることがわかった。これらの成果は、巨大飽和磁化の存在の可否、その生成法等に最終的な解決を与えるものである。
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