耐熱BCC合金や金属間化合物をはじめとする先端金属材料は、将来の超高温材料として大変注目されている。しかしながら、その強度特性が試験環境のような外部的な要因により、大きく左右されることが最近わかってきている。このことは、これまでの材料強度の測定値は必ずしも材料固有の特質を表すものではなく、試験環境により影響を受けた、いわば見掛けの性質である場合が多いことを示唆している。本研究の目的は理想的な環境の下で真の材料強度を測定し、環境脆化の問題を実験的および理論的に解明することにある。初年度である平成7年度では、我々が最近、作製した「試料表面清浄用イオン銃付き超高真空雰囲気引張り試験機」を使って、純Cr、純Mo、純NiおよびTi-6Al-4V合金の強度特性を調べた。さらにDV-Xα分子軌道計算を行い、クロム中の水素、酸素、窒素、炭素、およびボロン原子の電子状態を計算した。これらの研究より、以下の成果が得られた。 1.試料表面の状態や試験環境が高温金属素材の強度特性に影響を及ぼすことがわかった。すなわち、超高真空下で引張試験をした結果、いずれの材料においても、その0.2%耐力は表面を清浄にしたとき増加した。 2.その増加率は、純Cr単結晶>純Mo単結晶>純Ni単結晶の順に変わり、これは金属酸化物の標準生成自由エネルギーの順と良く対応していた。このように、これら高温金属素材でこれまで報告されている測定値は、真の強度より低く見積もられていることがわかった。 3.炭素やボロンなどはクロムと強い科学結合を形成し、高温金属素材の強度特性を左右する重要な元素であることが示唆された。
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