材料の強度特性が試験環境のような外部的な要因により、大きく左右されることが最近知られている。本研究の目的は理想的な環境の下で、真の材料強度を測定し、環境脆化の問題を実験的および理論的に解明することにある。平成7年度に引き続き、本年度は、(i)FCCとBCCの強度特性に対する表面状態の効果、(ii)表面酸化物と合金母相との原子容の差(PB比:Pilling-Bedworth比)と強度特性との関連、という観点から実験を行った。実験には「試料表面清浄用イオン銃付き超高真空雰囲気張り試験機」を用いた。試料として、純Ni、純Al、Fe-3mass%Si合金の[001]方位の単結晶を育成し、試験に供した。また、各単結晶材において電解研磨を施した試料、表面をArスパッタした試料、および673〜873Kの大気中で試料表面に約100nmの厚さの酸化物を生成させた試料について、強度特性の比較検討を行った。各試料の酸化物についてはX線光電子分光により同定した。 各材料表面の酸化物は、純NiではNiO、純AlではAl_2O_3、Fe-3mass%Si合金ではわずかにSiO_2が認められたが、ほとんどFe_2O_3であることがわかった。同一材料では、表面を酸化させた試料の引張り強度(最大応力値)はArスパッタをした試料より低かった。一方、各材料間では、表面状態による強度の低下率とPB比との間は相関は認められなかった。 本年度の研究結果から、FccとBccの材料によらず、その表面に生成する酸化物は、明らかに材料強度に影響を及ぼすことがわかった。今後、Arスパッタによる表面欠陥の導入の可能性とその材料特性への影響や、試験温度の影響などを検討することにより、さらに材料強度特性の本質が明らかになるものと考えられる。
|