金属材料の固体粒子衝突エロ-ジョンは2種類の損傷機構によって進行する。一つは塑性変形の繰り返しによる材料の脱離であり、他の一つは切削である。これらのプロセスは同時に起こるが、全損傷に対するそれらの寄与の割合は衝突角度ばかりでなく、衝突速度にも依存する。衝突速度が低くなるにつれて、固体粒子はターゲット材料表面を滑りにくくなり、切削による損傷は減少する。さらに低いある速度において、粒子は全く滑らなくなり、その場所では切削損傷が無くなり塑性変形損傷のみとなる。この速度を“臨界衝突速度"と定義した。本研究では、摩擦係数の測定から、すなわち、滑っている間は動摩擦係数を、滑らずに回転している間は静摩擦係数を示すことを利用して臨界速度を決定する方法を確立した。粒子衝突の瞬間における摩擦係数を測定するために、回転ターゲット装置を開発した。このように測定された臨界衝突速度は材料と粒子の両方の硬さばかりでなく固体粒子の形状と大きさに依存した。さらに、球形固体粒子が衝突するときのターゲット材料表面の挙動の解析より、臨界衝突速度を理論的に導出した。粒子が斜めから衝突する瞬間、表面にはへこみが形成されると同時に、粒子の動く方向に表面接線方向の歪みが生じる。歪み量が弾性限界を越えると、衝突した固体粒子は表面を滑り始め、その表面に切削損傷が引き起こされる。その限界の歪みは粒子速度、回転速度および粒子と表面との接触時間の関数として導出された。衝突挙動を特徴付けるこれらのパラメーターは全てターゲット材料と粒子の機械的性質から得られる摩擦係数、反発係数と粒子に関する他の因子から導出された。その結果、臨界衝突速度の理論値はターゲットと粒子の機械的性質の関数として表された。実験によって決定された臨界速度と理論式によって予測されたそれとの間には良い相関があった。
|