シャド-マスクやリ-ドフレーム等の電子材に利用されるFe-Ni基合金やフェライト系、オーステナイト系ステンレス鋼等などの高合金鋼は、近年利用分野の拡大に伴い、高清浄化の要求が益々高まっているが、脱酸過程で生成する介在物による製品中の欠陥が問題となっている。一方、介在物制御の際に基礎となる高合金鋼の脱酸平衡を熱力学的に予測する場合には、脱酸元素並びに溶解酸素の活量を濃度の1次並びに2次や交差項などの相互作用係数を知る必要があるが、これまで鉄鋼生産の主流が低合金鋼であったので、これらの高次の相互作用係数は極端に不足しているのが現状である。本研究では上記の高合金鋼の脱酸平衡を熱力学的に取り扱うために、脱酸元素、並びに溶解酸素の活量係数の高次の濃度依存性の相互作用係数を求めることを目的としている。研究初年度である平成7年度は、鉄と同族である、Mnとの高合金鋼についての脱酸平衡を取り扱い、MnO飽和の条件下で約20mass%Mn濃度までの溶融高合金鋼のSi脱酸平衡を取上げた。その結果、本高合金鋼系の脱酸平衡は予想通り、1次の相互作用係数のみでは記述できず、Mn-O間の高次の活量相互作用係数が必要であることが判明し、これらを決定した。研究最終年度である平成8年度は、鉄と同族であるNi並びにCoを含む高合金鋼の脱酸平衡に研究を拡張し、溶融Fe-Ni及び溶融Co中におけるAl-O間平衡、溶融Fe-Ni、Ni-Co合金中におけるSi-O間平衡、更に溶融Fe-Ni合金中におけるZr-O間平衡について研究した。すなわち、脱酸生成物であるAl_2O_3、SiO_2あるいはZrO_2るつぼ中に合金を装入し、高周波溶解炉で溶解し、1873KでAl、Si又はZr脱酸を行ってから、試料を採取、水中急冷し、各成分を定量した。その結果、広い濃度範囲において脱酸濃度積、相互作用係数の合金濃度依存性を求め、Fe-Ni-Co高合金鋼の脱酸に関する熱力学的基礎数値を整備することが出来た。
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