1.低温結晶中にドープされた化学種の光学遷移においては、ホノンサイドバンドの寄与が減少し、シャープな吸収線が期待でき、この結果、物質選択的、同位体選択的、モード選択的な励起の可能性が生じる。また、低温の固体中では振動励起が非常に遅いことも期待され、特異な反応の可能性がある。本研究では、小分子をドープした希ガス結晶を作成し、赤外、近赤外領域での選択的励起の可能性と、以後の反応および振動緩和過程を明らかにし、その結果に基づき新規な反応プロセスの基盤を解明することを目的としている。 小分子の低温固体中における励起と緩和の研究の対象として、酸素分子の詳細な検討を行った。すなわち、酸素分子をドープしたAr、Kr結晶を15K程度の極低温下に作製し、真空中に孤立させた。この結晶にKrF レーザー光を照射し、同時に結晶の紫外・可視吸収スペクトルを測定した。また高振動励起酸素分子から、電子励起状態への吸収スペクトルを測定し、スペクトル線の時間変化から、高振動励起状態の酸素の振動緩和の定量的な検討を行い、同時に、この吸収を用いて電子励起状態の酸素のポテンシャルを解析し、これら結晶中では、ケージ効果によりポテンシャルの形が影響されていることを示した。 次いで、多原子分子として、H_2Sとフロン類を選び、Kr、Xe結晶中の単離状態を検討し、これら多原子分子を孤立させるには何万分の1程度の低濃度にする必要があることを明らかにした。これらの単離分子はKrFレーザーで解離できることを明らかにしたが、一方、赤外の多光子励起・解離は困難であると結論した。これは、固体中の多原子分子の振動緩和の速さ、赤外多光子励起に必要なエネルギーのマッチングの困難さと関係していると考えられる。
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