石炭は共有結合又は非共有結合から成る架橋構造、すなわち、高次構造を有していると考えられているが、その詳細は明らかではない。本研究では石炭の架橋構造についての知見を得るため、石炭抽出物-溶媒ゲル膜を作成し、その熱機械分析(TMA)を行い、ゲル膜の粘弾性について検討した。 去年度に調製した米国のUpper Freeport炭(炭素%86.2wt%)、Illinois No.6炭(炭素%76.9wt%)の石炭抽出物(抽出物中のアセトン不溶ピリジン可溶成分、PS成分)とN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)溶媒とのゲル膜の性質を示差走査熱量計と赤外分光計より研究し、ゲル膜形成後の溶媒NMPはすべてPS成分あるいはNMP自身と水素結合しており、フリーの状態のNMPは存在しないことを明らかにした。次いで、種々の溶媒量のゲル膜の粘弾性挙動をクリープ実験から四要素モデルを用いて検討し、弾性項、粘弾性項、粘性項をそれぞれ求めた。この結果と米国の研究者で行われた同じIllinois No.6炭の抽出残渣-溶媒系の粘弾性挙動と比較検討し、溶媒量がほぼ同じ条件下では抽出残渣系の架橋密度が抽出物系より小さく、石炭全体が物理架橋(非共有結合架橋)を形成している可能性が極めて大きいことが分かった。粘性項は両者でほぼ同じ値を示しており、粘性発現への溶媒の寄与が大きいことを示唆した。架橋構造をさらに明らかにするためには周期的に応力を変化させる手法が有力であることも判明した。
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