プロピレンからプロピレンオキシド合成に代表されるオレフィン類のエポキシ化とベンゼンからフェノール合成に代表される芳香族の水酸化は、多段の反応と高価な酸化剤(過酸化水素、過酸など)を必要とする高難度反応である。申請者らは既に、水の電気分解を応用すると、これらの難しい反応が特別な酸化剤を用いずに常温常圧下でそれぞれアノードとカソード室で同時に進行することを見出している。本年度では、アノードでのプロピレンのエポキシ化反応を中心に有効な電極触媒の探索を行い、触媒の活性点とエポキシ化反応の機構を解明することを目的とした。まず、カソード、即ち水素発生側の電極Pt黒に固定し、アノード室にプロピレンをジクロロメタン溶媒に溶解させて液相の反応を行い、有効なアノード電極を探索した。Pt黒はプロピレンオキシドの選択合成に最も適していることが分かった。反応温度273K、印加電圧1.7V、電解質リン酸濃度1mol/lの条件下で、プロピレンオキシドの選択率は51%、酸化効率は28%で得られた。しかし、ジクロロメタンを溶媒に用いたため、生成物を分離する工程が必要となり、またジクロロメタンが環境に悪影響をもたらすため、そこで溶媒を用いずに気相反応でプロピレンのエポキシ化を実施した。その結果、気相反応でもPt黒が最も有効であることが明らかになった。また液相の反応と同様に、同じPt黒でも製造会社によりエポキシ化活性が大きく異なることが分かった。XPS測定によって高活性を示す和光純薬工業のPt黒の表面にはPtO_2が多く含まれていることが判明した。PtO_2をグラファイトと混合してアノード電極に用いると、プロピレンオキシドの選択率は最高75%、収率は17%となった。PtO_2がプロピレンエポキシ化の活性相であることを強く示唆した。反応機構については、PtO_2のPt^<4+>上でプロピレンが吸着し、水電解で生じた発生期の酸素、恐らく原子状の酸素が吸着したプロピレンに攻撃しプロピレンオキシドを生成すると推定した。
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