現在は異種蛋白質の合成は遺伝子工学的技術によっているが、この方法では合成が困難な場合もあるし、翻訳後の修飾を分子レベルで研究するためには無細胞蛋白質合成系が有望である。しかし、既存の無細胞蛋白質合成系ではあまりにも微小量しか合成されないので、物として得てその特性を調べることができない。そこで、無細胞蛋白質合成系の効率向上をめざして次の2点を研究した。 (1)無細胞蛋白質合成系の酵素工学的研究 翻訳反応速度を高めるため、材料として用いている小麦胚芽抽出液の濃縮を試みた。濃縮法としてポリエチレングリコール添加法が簡便であることを見出し、濃縮翻訳反応系の最適条件を検討した。最適条件下の反応では従来法と比較して約10倍の速度の向上が見られた(論文印刷中)。さらに、合成された蛋白質の精製法を検討している。最も簡便な精製法は反応後ポリゾームを超遠心分離することであると考え、この方法を調べた。現在までのところ、超遠心分離法によって、上澄液中の合成蛋白質(酵素)の比活性は約3倍向上した。 (2)分子進化工学的手法による無細胞蛋白質合成反応の効率化 真核細胞由来のmRNAの5′-末端上流にはいわゆるCap構造があり、任意のmRNAにこれを付加することは、技術の汎用性を難しくしている。ところが最近Cap非依存性のIRES構造があることがわかり、盛んに研究されている。そこで、小麦胚芽由来の翻訳系に有効なIRES構造を分子進化工学的手法を用いて求めることにした。現在までのところ、mRNA分子を反応系から取り出し、PCRによって増幅するための条件を決定し、より翻訳活性の高い分子種をmRNAのポリゾーム形成能の違いによって選択するための条件検討を行っている。
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