既存の無細胞蛋白質合成系ではあまりにも微少量しか合成されないので、物としてその特性を調べることが難しい。そこで、無細胞蛋白質合成系の効率向上をめざして次の3点を研究し、それぞれ成果を得た。 1.分子拡散型ミニバイオリアクターの開発 限外濾過膜を介して翻訳に必須なATPとGTPを連続的に供給する方式の分子拡散型ミニバイオリアクター(容量0.2〜1.0ml)の形式として2つのものを開発した。1つはキャピラリーチューブを使用した透明液循環方式であり、他の1つは反応槽の底部を膜とする平膜形式である。前者については、遠心濾過膜で濃縮した大腸菌のS30画分を用いることによって、約2.5時間の転写翻訳共役反応で、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)が1.2mg/ml合成できた。一方、後者においては、ポリエチレングリコールで濃縮した小麦胚芽抽出液を用いた系においてmRNAを経時的に添加することにより3時間でジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)が0.14mg/ml合成できた。 2.キャップ非依存性mRNAの5'-UTRの最適化 キャップ非依存的にmRNAのリボゾーム複合体への取り込みを促進する配列(IRESと呼ばれている)としてタバコエッチウイルス(TEV)の5'-非翻訳領域(5'-UTR)の配列から出発して8種類の断片をレポーター遺伝子の上流につなぎ、その蛋白質生成量を調べた。その結果、35ntからなるTEV-5'UTRの断片が完全長5'-UTR(144nt)よりも高い翻訳活性を示した。 3.翻訳反応終了後の目的蛋白質の分離・精製 ニッケル樹脂を用い、CATのN末端側にあるHis-Tagによる精製はうまくいかなかった。しかし、His-TagをC末端側につけ、さらに反応系のジチオスレイトールを全く除いてイミダゾール濃度を徐々に上げていった結果、1MイミダゾールでCATを分離することができた。
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