研究概要 |
反応の過程では化学結合の生成や開裂がおこり,反応中心は多様な原子価をとることが多い.分子の反応性は実験化学的にはルイス酸性あるいは塩基性の強さに関連づけられるが,その理論的意味はかならずしも定かであるとは言えない.そこで,本研究では量子化学計算と軌道相互作用の考えを用いて,分子中である反応中心が示す酸としての硬さ,塩基としての硬さを表す量を初めて定義し,その物理的意味を明らかにした.反応中心における結合角に歪みをもつシラン化合物について本方法を試用したところ,実験結果を満足に説明できることが明らかになったので,引き続きイオウおよびセレン化合物について計算中である.また,反応の遷移状態において種々の置換基が示す効果についても軌道理論の観点から考察した.実験的には,アリルカルコゲン化合物の酸化とイミノ化に伴う[2,3]シグマトロピー転移において,カルコゲンとしてセレンとテルルを用いて,以下の三種とイミノ化に伴う[2,3]シグマトロピー転移において,カルコゲンとしてセレンとテルルを用いて,以下の三種のジアステレオおよびエナンチオ選択的な反応に世界で初めて成功した.1)光学活性フェロセニルテルル基を有するアリルテルル化合物をt-BuOOHや空気で酸化することにより,対応する光学活性アリルアルコールを14〜22%eeの値で13〜51%の収率で得た.2)光学活性フェロセニルセレン基を有するアリルセレン化合物をPhI=HTs(イミノヨ-ジナン)でアミノ化することにより,対応するアリルアミンを77〜87%eeの値で42〜52%の収率で得た.3)アリルテルル化合物をPhI=NTsでアミノ化することにより,対応するアリルアミンを60〜85%の収率で合成することに初めて成功し,さらに光学活性フェロセニルテルル基を導入することにより,93%eeと高い値で光学活性アリルアミンが得られることを見い出した.
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