研究概要 |
半導体超微粒子の合成は通常,溶液あるいは固体マトリクス中で行われているので,量子サイズ効果による半導体超微粒子の粒径に依存した様々な物理化学特性はこれまである粒径分布を有する超微粒子の平均として得られており,単一粒子が有する特性を測定した例はほとんどない。本研究ではチオール誘導体を用いて硫化カドミウムを金単結晶表面に強固に固定した単粒子膜を調製し,走査型トンネル顕微鏡(STM)により膜中の個々の粒子を観察するとともにトンネル分光によりエネルギー構造を求めた。その結果,以下のことが分かった。 (1)原子レベルで平滑な金単結晶表面に硫化カドミウムをチオール化合物で化学結合させることにより単粒子膜を形成させた。この膜のSTM観察により2〜3nmの大きさの球状の超微粒子が観察され,単粒子膜が形成されていることが確認できた。(2)一つの硫化カドミウムに注目しトンネル分光測定を行ったところ,得られた電流電位曲線は正・負両バイアスともバイアス電流が流れるための境界電圧が存在しており,バンドギャップを有する半導体特有の形状を示した。しかしn型バルク半導体とは異なり,正バイアスで電流の整流性が見られないことから,超微粒子においては粒子中に電荷空乏層が形成されていないことが示唆された。(3)電流電位曲線の微分プロットより,1つの超微粒子についてのエネルギーギャップを求めることができた。粒径の異なる硫化カドミウム超微粒子について同様の実験を行いエネルギーギャップを求めたところ,エネルギーギャップの粒径依存性はtight-binding法により理論的に予想される値と良い一致を示した。このことからトンネル分光法は単一半導体超微粒子のエネルギー構造を決定するのに有効な手法であることが分かった。
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