研究概要 |
本研究では、芳香族化合物の1,2-ジクロロエタンおよびN,N'-ジメチルホルムアミド溶液に、ナノ秒電子線パルスを照射して芳香族化合物のラジカルチオンおよびラジカルアニオンを生成させ、さらにそれらラジカルイオンの吸収にあった波長のレーザーパルスの照射によってラジカルイオンの光励起状態を生成させ、その反応性を過渡吸収測定によって明らかにした。特に、ラジカルイオン光励起状態と中性分子の光励起状態との差異、同じ分子ラジカルカチオン光励起状態とラジカルアニオン光励起状態における寿命・過渡的現象の差異、ラジカルイオン光励起状態からのホール移動・電子移動の特徴などを明らかにした。 例えば、スチルベンのラジカルアニオン(St^<・->)の光励起状態では、光電子放出によるStと溶媒和電子の生成と(量子収率は0.06-0.07)c-St^<・->の光励起状態の振動基底状態への緩和が競争的に起こり、さらにc-St^<・->の光励起状態の一部はt-St^<・->へ異性化するが(量子収率は0.14)、大部分は緩和して基底状態のSt^<・->を再生する。ビフェニルなどの電子受容性分子共存下では、数ナノ秒の時間領域でSt^<・->の光励起状態から電子受容性分子への電子移動が起こることを見出し、c-St^<・->およびt-St^<・->の光励起状態の寿命はそれぞれ2nsおよび3nsと求められた。 また、フェナジン、9,10-ジシアノアントラセン、アントラキノン、およびアントラキノン誘導体のラジカルアニオンの光励起状態(M^<・-*>)はレーザーパルス内(4ns)に無輻射失活し、基底状態に変換される。p-ジシアノベンゼン(DCB)やフマロニトリル(FN)を添加すると、M^<・-*>からDCBやFNへの電子移動が進行する。M^<・-*>の寿命は約4nsとほぼ等しいことがわかった。
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