研究概要 |
近年,ヒトの生体においても,プラスチック,ゴム,油脂と同様にフリーラジカル連鎖的酸化反応が進行し,それが種々の疾病,発癌,さらには老化にもつながることが次第に明らかになりつつあり,よりすぐれた酸化防止剤の開発が要望されている.本研究はこのような背景を考慮して,新規セレン含有化合物であるエブセレン,および他の関連化合物を設計,合成し,その抗酸化機能を解明するとともに,新規高活性抗酸化物を開発することを目的として進めた.まず,エブセレンのラジカル捕捉能,金属キレート化作用,ヒドロペルオキシド分解作用について,簡単なモデル系で調べた.その結果,エブセレンにはラジカル捕捉能,鉄および銅イオンのキレート化作用はほとんど認められなかった.一方,エブセレンは速やかにヒドロペルオキシドを還元し,金属イオンにより誘起される酸化反応を顕著に抑制することが認められた.この酸化抑制作用は脂肪酸エステルのミセル,リン脂質のリポソーム膜,ヒト低比重リポタンパク質,いずれの酸化反応についても認められた.さらに,酸素ラジカルにより生ずる細胞傷害についても,エブセレンが防御効果をもつことが示唆された.現在,さらに詳細に明らかにするために,酸素ラジカルとの反応性,ビタミンEなどの酸化物との相互作用,ヒドロペルオキシドからの分解生成物について検討を加えている.
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