研究概要 |
複素環化合物の有用な合成手段である1,3-双極性環状付加反応の不斉触媒化目的として,初年度は,アリル系アルコールを親双極子として用いるニトリルオキシドおよびニトロン双極子との反応について以下の研究を行った. 1)活性なカルボニル共役ニトロンとアリル系アルコールとの反応を種々の金属イオン存在下で調べ,マグネシウムイオンと他の金属イオンとでは,異なる立体・レギオ選択性が発現することを見い出した. 2)マグネシウムイオンはキレート遷移状態を効率的に安定化して反応加速するのに対し,他の金属イオンはアリル系アルコールのカルボニル基への付加反応を触媒する分子内型反応として加速すると結論した. 3)キラル配位子で修飾されたチタン触媒下でのニトロン環状付加反応を検討した. 4)ニトリルオキシドとアリル系アルコールとの環状付加反応を触媒する金属イオンの探索を行い,マグネシウムイオンが唯一の有効な触媒であることを学んだ. 5)これらのニトリルオキシド環状付加反応では,マグネシウムイオンのイオン半径が重要な意味をもつ.すなわち,キレート遷移状態を最も効率的に安定化できるサイズのイオンであることが触媒の必須条件であると判断した. 6)原子価異性反応あるいは逆環状付加反応によってニトリルオキシドを発生し得る新規な複素環型前駆体を設計し,ルイス酸触媒による双極子の新発生法を検討した. 7)低反応性で単離可能なメシトニトリルオキシドと種々のアリル系アルコールとの室温,無触媒下での反応性を調べ,この双極子を用いた反応検討から反応制御の有用な情報が得られることを確信した. 8)化学量論量のマグネシウムイオン触媒下でのアリルアルコールとの反応は最高700倍の反応加速を示した. 9)クロチルアルコールとの反応は化学量論量のマグネシウムイオン触媒下でほぼ完全なレギオ選択性を示した. 10)反応加速は低濃度ほど効果的である. 11)マグネシウムイオン触媒下で5回程度の触媒サイクルが成立する.
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