研究概要 |
効率的な不斉合成法の開発は、現代有機合成化学の中心課題である。近年、様々な不斉合成手法が開拓されているが、中でもキラル補助基をもつキラル・エノラートを用いる手法は、最も信頼性の高い不斉合成法の一つとして認知されている。これに対して、α,β-あるいはβ,γ-不飽和カルボニル体から生成されるキラル・ジエノラートの化学は、その高い潜在的有用性にも拘わらず全く未開拓の分野であった。もちろんキラル・ジエノラートの化学には、その求電子剤との反応における不斉誘導(%de)と末端二重結合の幾何制御など、キラルエノラート化学以上に難しい問題が含まれている。そこで本研究では、キラル・ジエノラート化学という新分野を開拓し、これとシグマトロピー転位の化学を合体させて新しい不斉合成法の開発を試みた。とくに「不斉誘導/不斉転写/不斉誘導の連続」という手法によって従来困難とされていた遠隔不斉合成の新しいアプローチを提供することを目指した。その結果、キラル・ジエノラートの高立体選択的生成法を確立し、これに基づく効率的遠隔不斉合成法を開発した。すなわち、キラル補助基として(-)-サルタムを有するα,β-不飽和アミドおよびβ,γ-不飽和アミドから、リチウムおよびボロン・ジエノラートを生成させ、そのアルキル化反応、アルドール反応を行った結果、高い不斉誘導率(%de)および高いE/Z選択性で末端二重結合の幾何配置を制御できることを見出した。また、このようにして得られたアリル化体およびアリルアルコールの[3,3]-転位(熱的)によりそれぞれCope転位生成物、oxy-Cope転位生成物を高立体選択的に得ることに成功し、13-遠隔不斉合成の新手法を開発することに成功した。本研究結果は、不斉合成の新しいコンセプトを提供し、キラル補助基をより高度に活用している点においても、極めて独創性に富んだ不斉合成手法である。
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