研究概要 |
1.パン酵母から単離精製した還元酵素を用いる高立体選択的不斉還元 パン酵母中には反対の立体選択性を示す複数の還元酵素が含まれるために、細胞還元系では立体選択性や位置選択性が低下する傾向にあり、多官能性基質に対してはそれが不利に働くことが懸念される。そこで本年度は、パン酵母無細胞抽出液から数段階のクロマトグラフィーにより1-クロロ-2-ヘキサノンに還元活性を示す酵素を単離精製し、それを用いて種々の多官能性カルボニル化合物や単純ケトンを還元することにした。その結果、目的の還元酵素は、NADPH依存型であり分子量約37,000の単量体酵素であった。触媒量のNADPHを再生するためにグルコース-6ーリン酸とグルコース-6ーリン酸デヒドロゲナーゼを共存させて還元反応を行った。その結果、1-クロロ-2-ヘキサノン、1-クロロ-2,4-ヘキサンジオン、1-アセトキシ-2-ヘプタノン、アセト酢酸メチル、ピルビン酸エチル、2,4-ヘキサンジオンに対して高い活性を示し、98%ee以上の光学純度で還元された。また、1-クロロ-2,4-ヘキサンジオンと2,4-ヘキサンジオンに対する位置選択性は100%であった。 2.クロロジケトン類に対する立体選択性の人為的制御 パン酵母中には反対の立体選択性を示す複数の還元酵素が含まれるために、立体選択性が低いことがある。しかし種々の添加物や阻害剤や熱処理によりいくつかの還元酵素を選択的にブロックすることができれば、立体選択性を人為的に制御できる可能性がある。1-クロロ-2,4-アルカンジオンは合成化学的に有用性の高い多官能性基質であるが、その酵母還元における立体選択性はあまり良くない。偶然我々は、微量の有機溶媒が特定の酵素を阻害し立体選択性を変化させることを見いだした。微量の有機溶媒と阻害剤(アリールアルコール)と熱処理を併用することにより、6%eeの選択性を94%eeまで向上することに成功した。
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