高分子混合系を流れの場におくと系の相溶性が変化する(流れ誘起相溶性化または非相溶化)現象が最近多くの注目を集めているが、その機能は必ずしも明確にされていない。平成7年度の研究で一軸延伸が柔軟な高分子からなるブレンド系の相溶性を低下させることを示したが、これは排除体積理論の予測と一致する。一方、この理論は剛直なゲスト分子に対し延伸誘起相溶化現象を予測する。これを検証するため、ネマチック液晶性棒状分子と柔軟性高分子(エチレンプロピレンゴム)からなるブレンドフィルムに一軸延伸を印加し、各成分の配向度を赤外二色比分光法(IRD)により測定するとともに、系の共存曲線に及ぼす分子配向の効果を調べた。その結果は理論の予測と一致した。 また、分子内に少数のカルバゾール基を有する分子量分布の狭いポリスチレン(PS^*)をリビングラジカル重合法で合成し、これを少量含むポリスチレン(PS)とポリビニルメチルエーテル(PVME)混合系の共存曲線に及ぼす延伸効果を偏光蛍光法により調べ、平成7年度の低角レーザー非散乱法による同種の実験と比較した結果、本系の延伸誘起非相溶化現象をより高い精度で確認することができた。以上の結果より、延伸により相溶性が変化する現象の主因は、排除体積効果つまりエントロピー効果であると結論した。これはまた、流れにより相溶性が変化する現象においても流れが分子配向を誘起することから、その要因の少なくとも一部をエントロピー効果に求めるべきであることを意味している。
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