洋空間利用のために海上に超大型浮体を設置する計画が、実現性を帯びて現在検討されている。これに対し、浮体を海上に設置すると、浮体による日射の遮蔽、海水の蒸発および降水等の遮断、風応力の遮断等により、浮体周囲とくに浮体直下の海水の水質保全に悪影響が生ずるとの指摘がある。このような問題を事前に検討するためには、物理実験と並んで数値シミュレーションが極めて有効であるとの観点から、浮体まわりの海水交換に関する数値シミュレーションを実施し、浮体の影響を検討した。そのため、長さ40km、幅20kmの矩形のモデル湾内を想定し、その湾内に長さ6km、幅2kmの浮体を中央に設置した場合、上記の諸要因を遮断することにより、どのような影響が出るかをシミュレーションで明らかにした。その結果は、平成8年秋季に開催された2つの学会において発表した。 モデル海域での数値計算の結果、判明した事柄は以下の通りである。 (1)日射の遮断により浮体周囲の水温分布に不均一性が生じ、その結果、誘起される海水の流動は無視できない大きさとなる。 (2)海水の流れは表層のみならず、深層にも及ぶ。また、表層と深層とでは、異なる流動系を作る。 (3)浮体の存在によって生ずる海水流動は、平面的にも浮体近傍に限られることはなく、広い範囲に及ぶ可能性がある。 (4)浮体直下の流体粒子の動きを粒子追跡法で追跡した結果、冬季よりもむしろ夏季の気象状件の方が、浮体直下に残留する粒子数が少ない、すなわち、海水交換の進むことが明らかになった。
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