本研究は、実験技術の限界を越える条件下での材料の変形・破壊挙動を原子レベルで解析できる分子運動力学法を用いて、高速機械加工における加工速度が切りくず排出や仕上面創製などの加工現象に及ぼす影響を明らかにし、合わせて、原理的な限界速度および実用的な加工速度を明らかにしようとするものである。本年度の研究成果は次に示す通りである。 1.分子動力学モデルにおいて、工具と共に境界を並進させて、計算領域内に原子を次々に流入させ、領域外に出た原子を棄却することによって、計算時間を増加させることなく、定常切削状態での加工現象を解析できる手法を提案した。 2.モデル中の原子の運動エネルギ分布に補正を加えることによって熱伝導を加速し、分子動力学法では電子の存在を考慮していないため従来は不可能であった、主として電子の移動にもとづく金属中の熱伝導を模擬する手法を提案し、切削温度分布の解析を可能にした。 3.これらの手法を用いて、銅の超高速微小切削の分子動力学解析を行った結果、工具の耐熱性が十分にあれば、200m/s付近に切削抵抗が低く、加工面品質の高い最適切削速度が存在し、物理的な限界切削速度は1800m/s付近、実用的な限界は1000m/s付近にあることを明らかにした。また、これらの限界は被削材の熱伝導特性に関係することも明らかにした。
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