本研究では、気相法によって高速にかつ従来よりも低温で緻密な炭素材料薄膜を形成することを目的とした。三フッ化窒素をフッ素源として用い、これをプラズマ中で分解することによって活性フッ素を生成させ、炭素薄膜形成の低温化を狙った。さらに四重極質量分析計を用いて気相における反応機構を明らかにした。得られた成果は以下の通りである。 1.活性フッ素を用いた炭素薄膜の合成 炭素源に芳香族のベンゼンを、フッ素源として三フッ化窒素を用いて、これをプラズマで活性化することによって炭素薄膜の形成を行った。プラズマで活性化した場合には炭素薄膜は400℃という低温でも形成することができ、またプラズマで活性化しないときよりも成膜速度は速かった。基板、基板温度、三フッ化窒素、ベンゼン流量、プラズマパワーを種々変え、得られた膜の性質との関連性を明らかにした。基板としてはニッケル基板よりガラス基板の方が平滑な薄膜を与えた。基板温度を上げると炭素薄膜の堆積速度が低下し、基板温度は700℃が最適であることが示された。また、プラズマパワーを増加させると、薄膜堆積速度は低下するが得られる膜の結晶性が向上することが明らかになった。 2.四重極質量分析計による気相反応機構の解明 プラズマ反応容器に直結した四重極質量分析計を用いて、気相における反応を機構を調べた。三フッ化窒素プラズマ中に導入すると、三フッ化窒素から活性なフッ素ラジカルが放出され、これがベンゼンの水素原子と置換しフッ化ベンゼンが生成することが明らかになった。フッ化ベンゼンをプラズマ中で分解させたときのマススペクトルより、フッ化ベンゼンはベンゼンよりもはるかにプラズマ中で分解しやすいことが示された。従って、気相中でのフッ素ラジカルによるベンゼンのフッ素化反応が炭素薄膜の堆積速度を向上させるのに寄与しているものと推察された。
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