大気中で溶解されたアルミニウム中には気相中の水素分圧から考えると異常に高い濃度の水素が溶解する。この高い水素濃度が維持されるメカニズムに溶湯表面に生成するアルミナ膜中のプロトン電導が関与していることを証明するために、多結晶アルミナ中の水素透過について調べた。測定には報告者らが新たに開発したプロトン導電性固体電解質を用いた水素透過測定装置を用いた。まず、測定装置の性能を調べるために、従来から報告例のある、非晶質シリカとパイレックスガラス中の水素透過について測定した。その結果、透過量、拡散係数ともに従来の報告値と良く一致する結果が得られた。また、その水素分圧依存性を調べた結果、このようなガラス構造の場合には、水素は分子の形で透過していることが明らかになった。ついで、多結晶アルミナの水素透過について測定した。多結晶アルミナ管の内部と外部に単に水素ポテンシャル差をつけて測定した場合、拡散係数は従来の報告に比べて大きな値が得られた。また、水素の透過量は水素分圧の約1/10乗に依存する結果が得られ、水素は水素イオンすなわちプロトンで透過しているものと考えられる。この場合、水素の拡散は両極性拡散となり、プロトンの移動に伴う電荷の移動を補償するため、対となる荷電粒子の移動が必要になる。この粒子としてはアルミニウムイオン、酸化物イオン、電子が考えられ、透過量はこれらの粒子の移動のし易さに依存すると考えられる。水素の拡散係数が測定者によって異なるのはこのことによるものと考えられる。また、透過量は高水素分圧側に溶融アルミニウムを接触させることで減少することが確認され、対となる粒子はアルミニウムイオンであることを示唆する結果が得られた。これらの結果は、当初想定した酸化膜を介しての水素の電気化学的ポンピングのメカニズムを強く支持するものである。
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