イネは世界の主要作物の一つであるが、その生育は種々の外的環境因子によって左右されている。本研究では、その中でも特に塩害に注目して、イネの遺伝子発現と組織形成や生長との関連について解析している。ステレス条件下では、エネルギー代謝関連の遺伝子群が協調的に発現し、それが細胞・組織レベルで一連の抵抗性として発揮される。我々は既に、塩ストレスにより解糖系の多くの遺伝子が活性化されること、また一方でエノラーゼやピルビン酸脱炭酸酵素といった遺伝子の発現が抑制されることを見出している。そこで、律速的な遺伝子の改変および導入によって、イネにおけるストレス耐性品種育成のモデル系を提示する。 さらに我々は、根の通気組織と維管束系の分化が塩ストレスによって著しく阻害されることを見出している。そこで、これら組織形成の機構を分子レベルで明らかにするため、特定遺伝子の発現との関連を詳細に解析した。 まず、エネルギー代謝に関連して、塩ストレスによって発現が抑えられるピルビン酸脱炭酸酵素のcDNAを単離し、その構造を解析した。また、ATPの量比を調節するアデニル酸キナーゼの活性を塩ストレス下で測定した。その結果、イネの根において、塩ストレスによる活性の増加が観察された。ところが、塩ストレス耐性の育種lincでは活性の上昇が見られなかった。これらの結果は、塩ストレスによるエネルギー代謝の変化が、ストレス耐性と密接に関連していることを示唆している。
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