矮性台(ユスラウメ台)モモの矮化機構を解明するため、共台のモモと比較しつつ接木部のポリフェノール含量を組織化学的および化学的分析により調べた。 接木部の切片をflavan-3-olとproanthocyanidinの選択的染色剤であるDMACA(p-dimethylaminocinnamaldehyde)で染色し、光学顕微鏡で観察した。共台ではカルス細胞は染色されず、後に吸収され維管束系が分化した。癒傷形成層は完全につながり、接木は完成した。その時、樹皮部に多くの青色細胞が認められ、これはモモにもともと種々のポリフェノール物質が多いためと思われた。一方、ユスラウメ台では接木部のカルス細胞を青色に染色された細胞がとりまき、その部位では壊死細胞も認められ、これらが接ぎ木部の完全な接着を妨げているようであった。 3年生の共台とユスラウメ台モモ樹の接ぎ木部、穂木部、台木部のアセトン抽出物をHPLC(検出は280mmでのUV吸収)で測定し、RT15分以上の4個の未同定ポリフェノールのピークを得た。篩部ではピーク1が最も多く、ついでピーク2で、ともに共台の、穂木より台木部で多かった。木部ではピーク1と4が主要なピークで、特に共台で多かった。ユスラウメ台の台木部には篩部、木部ともにピークは全く認められなかった。抽出物をDMACAで染色しHPLCによりカテキンを同定、測定した。カテキンは、共台とユスラウメ台に存在した。篩部では共台で多く、木部ではユスラウム台で僅かに多かった。 以上の結果、モモはポリフェノールを比較的多量に含むが、ユスラウメではごく少なく、このためユスラウメ台のモモでは穂木(モモ)と台木(ユスラウメ)の接木部においてモモからユスラウメにポリフェノールが移行し、このポリフェノールがユスラウメの細胞に害作用を及ぼして接木部の癒合を不完全にしているものと考えられた。
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