栽培種のナシはチュウゴクナシ、セイヨウナシ及びニホンナシに大別され、成熟エチレンの生合成パターンからチュウゴクナシとセイヨウナシはクライマクテリック型果実に分類に、ニホンナシはノンクライマクテリック型果実に分類されている。しかしながら、我々は数品種のチュウゴクナシで、成熟エチエンを全く生成しないことを見出し、ノンクライマクテリック型品種も存在することを明らかにしてきた。今回の研究では最近急速に進歩してきた分子生物学的研究手法を用いてチュウゴクナシの果実成熟特性を調査することによって、クライマクテリック型果実とノンクライマクテリック型果実の本質的相違を解明することを目的とした。 1.3品種のチュウゴクナシ及びセイヨウナシ、ニホンナシから1品種ずつを選び、RT-PCR法を用いて、エチレン生合成の律速酵素であるACC合成酵素及びACC酸化酵素をコードするcDNAをクローニングした。全部で13種のACC酵素遺伝子及び9種のACC酸化酵素遺伝子が得られ、推定アミノ酸配列を解析した結果、ACC合成酵素遺伝子は4種、ACC酸化酵素遺伝子は2種に分類された。 2.ノーザン分析による遺伝子発現解析によって、2種のACC合成酵素遺伝子がクライマクテリック型品種でのみ果実成熟に伴って発現することが明らかになった。一方、ACC酸化酵素遺伝子は、‘紅梨'を除くいずれの品種でも成熟に伴って発現が高まった。 3.いずれの品種でも傷害処理によって、2種のACC酸化酵素遺伝子と成熟型とは異なる2種のACC合成酵素遺伝子の発現が検出された。 4.以上の結果から、ナシ果実では成熟に特異的に応答する2種のACC合成酵素遺伝子の発現が成熟エチレンの有無、すなわちクライマクテリック型とノンクライマテリック型の違いを決定していることが明らかになった。
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