本研究は小胞体の分化の実体を把握し、それがどのような分子機構によって生ずるのかを、細胞化学・分子遺伝学的手段を用いて解明することを目指した。そのため、本研究計画では酵母を材料として、小胞体に存在するリン脂質の合成系を構成するいくつかの酵素の小胞体中における分布と、それらが小胞体に組み込まれ、維持される機構の解明を図った。(1)これまで、ミクロソームを遠心分離によって沈殿物として回収して、その後に緩衝液に再懸濁して分画する方法は良好な結果を与えなかったので、小胞体を沈殿物とせずに行う密度勾配遠心法を検討した。(2)分離・分画した各区小胞体成分の免疫学化学的分析。使用する抗血清としては、phosphatidylserine(PSS)、phosphoethanolamine cytidylyltransferae(ECT)などに対するものを調製し、精製した。(3)特に、PSSについて変異を導入し、酵素中の細胞内局在性決定領域がアミノ末端の114アミノ酸の親水性領域とそれに続く15アミノ酸の疎水性領域にあり、どちらも小胞体に局在するのに必要であることを示唆する結果を得た。また、ECTについては、大腸菌で生産させたとき、膜画分に一部回収されたことから、恐らく酵母でも小胞体に結合しているのではないかと示唆された。リン脂質 phosphatidylethanolamineの含量が大幅に低下したect pss二重遺伝子変異株では、小胞体構造の変化を含む大幅な膜構造の変化が観測された。
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