ホスファチジルイノシトール3キナーゼの役割や活性調節機構の解析のため、1)ホスファチジルイノシトール3キナーゼの産物、PIP3に対する結合タンパク質を検索する、2)活性型ホスファチジルイノシトール3キナーゼを細胞に発現させ、その細胞応答を観察する、という方法で実験を進めた。その結果、1)では数種のタンパク質が検出され、そのうち、未知と思われる約40kDのタンパク質を同定し、遺伝子のクローニングした。塩基配列決定の結果、Zinc fingerモチーフをもちArfという小胞輸送にかかわるG-タンパク質のGTPase活性化因子と高い相同性をもつことがわかった。また、Pleckstrin homology領域を2つもち、これがPIP3に結合すると考えられた。これらの結果は、以前からあるホスファチジルイノシトール3キナーゼが小胞輸送に関わるという仮説を支持し、実際にホスファチジルイノシトール3キナーゼと小胞膜輸送の仲介をするタンパク質を発見した可能性を示唆している。また、そのほか既知のタンパク質も数種同定している。そのうち1つはtecチロシンキナーゼで、ホスファチジルイノシトール3キナーゼと共発現させると活性が抑制されることがわかった。また、PIP3との結合ドメインとしてPleckstrin homology領域付近を決定した。この領域を欠くtecタンパク質は上記の活性抑制を受けないことから、ホスファチジルイノシトール3キナーゼにより活性を調節されていると考えられた。また、2)は従来難しいとされていたがレコンビナーゼをコードするアデノウイルスによる遺伝子組み替えを利用することにより、成功した。これにより、いくつかの細胞系デ興味深い表現型を得、ホスファチジルイノシトール3キナーゼのはたらきの解析に有用な細胞株の樹立を確認した。
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