枯草菌の胞子形成開始期における染色体分配の機構は殆ど不明であり、DNA複製と細胞分化に関連した極めて興味深い研究課題である。胞子形成開始のシグナルはリン酸リレー系によって感知され、最終的には転写調節因子であるSpoOA蛋白質の活性化(リン酸化)がおこり、胞子形成が開始される。このリン酸リレー系には様々なシグナル(栄養源の欠乏、DNAの複製と分配、細胞分裂、細胞密度)が入力され、細胞内の活性化SpoOAの濃度が調節されている。 枯草菌染色体複製開始点近傍に存在するspoOJオペロン(spoOJA-spoOJB)は、プラスミドの分配に必要なparA-parBオペロンのホモログである。また、spoOJオペロンの上流にはSpoOJB蛋白質のホモログをコードするrojが存在する。本研究では、これらの遺伝子の機能解析を行い、spoOJBが栄養増殖期の染色体分配に必要であること、SpoOJA蛋白質が胞子形成開始期(stage I)のリン酸リレー系と非対称隔膜形成または染色体分配を抑制していること、またSpoOJBがSpoOJAの活性を抑制すること、つまりSpoOJBはSpoOJAを介して、胞子形成開始期の染色体分配にも関与していることを明らかにした。SpoOJA/SpoOJBがリン酸リレー系とstage Iの両方を調節していることは、胞子形成開始期においてSpoOJA/SpoOJBがこれらの機能を同調させる働きがあると考えられる。さらに、spoOJオペロンの転写制御についても解析し、Roj蛋白質がspoOJオペロンのレプレッサーとして働いていること、またspoOJオペロンの発現は胞子形成開始期にSpoOAによって抑制されることを明らかにした。
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