チャイニーズハムスターV79-R細胞の脱脂生育培地に、n-3系及びn-6系不飽和脂肪酸種を種々の比で加えて、これらの脂肪酸のリン脂質への選択的取り込みを調べた。用いた不飽和脂肪酸は、n-3系としてはα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、n-6系としてはリノール酸、アラキドン酸であった。これらのうちで相対的に不飽和度の低いものが、n-3、n-6に関係なくホスファチジルコリンに優先的に取り込まれた。それに対して、相対的に不飽和度の高いものはn-3、n-6とは無関係にホスファチジルエタノールアミンに多く取り込まれた。二種類の不飽和脂肪酸で二重結合の数が二個以上離れている場合、これらが共存すると二重結合の数が多い方はホスファチジルエタノールアミンに、少ない方はホスファチジルコリンに選択的に取り込まれた。リン脂質の分子種分析を行ったところ、培地中のn-3/n-6比が変化するにつれて、それらが拮抗的にリン脂質に取り込まれる様相が明らかとなった。二重結合数が増加するに従って、このような不飽和脂肪酸をc-2位に結合した分子種がホスファチジルエタノールアミンで増加していることを示すことができた。特に重要なことは、ドコサヘキサエン酸は他のいかなるn-3系、n-6系不飽和脂肪酸よりも優先的にホスファチジルエタノールアミンに取り込まれ、特にパルミトイル/ドコサヘキサノイル及びステアロイル/ドコサヘキサノイル分子種を構成することが明らかとなった。このことは、n-3系不飽和脂肪酸の摂取量に関して重要な知見を与えるものである。
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