研究概要 |
11年生ヒノキ林分において,樹高5.5mのサンプル木の高さ4.4mに存在する2本の枝を選定し,それぞれに同調同化箱を設置した。そのうちの1本(径,3.8mm;長さ,63cm)を370ppmの濃度(コントロール区)下で,また,他の1本(径,3.6mm;長さ,56cm)を800ppmの濃度(高濃度区)下に置いた。それぞれの区のCO_2ガス交換速度を通気法により赤外線ガス分析計で連続的に測定した。 各月の夜間呼吸速度に対するQ_<10>と夜間の月平均気温との関係を調べた。量濃度区ともに冬季にQ_<10>が高く,一方,夏期にQ_<10>が低かったが,高濃度区のQ_<10>はコントロール区のQ_<10>よりも常に低い値であった。 実験を開始直後においては両区での呼吸速度の間に差は認められなかったが,高濃度区での呼吸速度は6ヶ月間でコントロール区での呼吸速度のほぼ1.5倍まで増加し,その後は1.5倍で推移した。このことは,高濃度区での光合成速度が実験開始直後からコントロール区での光合成速度よりも高かったことと異なる現象であった。また,冬季においては,高濃度区での光合成速度はコントロール区での光合成速度を下回ったが,呼吸速度に関してはこのような現象は認められなかった。 以上の結果は,以下のようにまとめることができる。1)高CO_2は,温度の増加に対する呼吸速度の増加の度合い(すなわちQ_<10>)を低下するように作用した。2)高CO_2は,呼吸速度の増加をもたらすが,その影響には時間遅れが認められた。このことは,高CO_2が光合成速度の増加をもたらす影響が実験開始と同時に現れたことと対照的であった。3)高CO_2は,光合成に対しては気温の低い冬季にはネガティブに影響するが,呼吸速度に対してはこのような影響は認められなかった。
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