研究概要 |
本年度は,下水処理水の都市近郊林への散布による浄化システムの試作運用とそれに伴う諸問題について検討を行う実証試験に着手した。すなわち,岡山市南西部に位置するマツ二次林において下水1次処理水をポンプで汲み上げ,林内に総延長約500mにわたり設置した多孔パイプから定期的に散布する試験を開始した。その結果,散布にともない土壌に付加されたカチオンのうち,いくつかは土壌の粗間隙を土壌水とともに移流・通過し,散布地点から斜面下方の土壌深部に高い濃度で集積する事実を確認した。しかし,これらカチオンの土壌系での集積は不規則であり,その移動形式については次年度さらに詳細な検討を行う必要があることが明らかになった。 このように土壌へ付加された溶存イオンの移動は主に水の動きに支配されていることから,森林土壌系における水質浄化機能の定量的な解明には,土壌中での水と溶存イオンの挙動を同時に把握する必要がある。そこで,本研究では,水のトレーサーとして重水標識水を,また溶存物質のトレーサーとして重窒素標識アンモニュウムイオンを選び,野外から採取した非攪乱の土壌カラムへの人工散布試験に着手した。本年度は,人工散布試験装置と重水標識水の微量定量システムの作成ならびに予備試験を行い,土壌の養分保持・水質浄化機能が土壌自体の陽イオン交換能に加えて間隙の分布度合いや硬度などに大きく支配されている事実を明らかにした。
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