本研究では、申請者の発案により、ポストCCAを目指して、小林と協力して開発した全く新しいタイプの木材防腐剤である「キトサン金属塩系木材防腐剤(CCS)」で処理した木材試験体(スギJIS小試験片とスギ実大材)中での薬剤成分(銅元素)の存在様式(固着状況)、ならびにこれと関連させて処理試験片中でのオオウズラタケ(TYP)菌糸の挙動をSEM-WDXAで詳細に調べることによって、CCS処理による防腐効力発現のメカニズムを推定した。JIS・A9201(1991)耐候操作を施したJIS小試験片中での銅元素は、試験片表面に露出している内腔部分と軸方向柔細胞および放射組織中にだけ存在し、それ以外の仮動管内腔中には存在しなかった。このようにJIS小試験片中でCCS成分は試験片表層と柔細胞内腔中に選択的に固着していた。しかし実大材では試験体表層の数細胞にしかCCS成分は存在していなかった。それにもかかわらず、CCS処理したJIS小試験片はCCA3号処理と同等かそれ以上の優れた防腐効力を示した。ところで、TYP菌糸はスギ試験片中で放射柔細胞中に集中的に存在し、軸方向柔細胞中にも存在していたが、仮道管内腔中では放射組織と接しているところを除いて、ほとんど存在しなっかった。このようにTYP菌糸は柔細胞中に選択的に侵入することによって、柔細胞とそれに隣接する細胞壁を劣化することが分かった。TYP菌糸のこのような特異な挙動と、CCS成分の組織中での特異な分布がうまく一致したことによって、高い防腐効力が発現されたものと推察した。このようにCCS処理は、従来のCCA処理のように「全細胞壁含浸固着型」ではなく「特定細胞壁表面固着型」であることにより、CCAの約1/10〜1/20の金属量で同等の効力を発揮し、安全性の高い防腐処理法であることが判明した。
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