魚類耳石の微量元素特性による履歴情報解析の基礎研究に資するために、種々の微量元素、特にSrの耳石への取り込みと環境要因(水温、Sr濃度、希釈海水等)の関係を調べ、合わせて性成熟の影響も調べた。得られた結果の概要は次の通りである。 1.環境水に添加したSrとBaは、濃度依存的にキンギョ耳石に取り込まれたが、AlとFeの取り込みについては、濃度依存性は認められなかった。また取り込まれたSrの代謝回転率は極めて小さく、180日後も減少することはなかった。 2.環境水のSr濃度と血液または耳石のSr量は指数関数で表され、高濃度になる程取り込み率が減少した。 3.淡水、1/9、1/6または1/3海水で飼育したキンギョ耳石のSr/Ca比は、環境水のSr濃度の絶対値ではなく、Sr/Ca比と相関が高かった。 4.耳石のSr/Ca比は、飼育水温(10-24℃)と正の相関(r=0.65)を示し、海産魚で報告されている負の相関とは逆の関係であった。 5.エストラジオール投与により、耳石へのSrの取り込みは減少した。 以上の結果から、耳石に取り込まれた微量元素、特にSrは長期間安定的に残留するので、履歴情報の解析に利用できることが明らかになった。しかし複数の要因が取り込み代謝に影響を及ぼすので、フィルドで得られた耳石データの解析には注意を要することも判明した。
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