魚類耳石の微量元素特性による履歴情報解析の基礎研究に資するため、微量元素の耳石への取り込みに及ぼす環境要因、性成熟、成長率などの影響を調べ、併せて耳石へのCa輸送様式をin vitroで調べた。得られた結果の概要は次の通りである。 1.環境水のSrやBaは濃度依存的にキンギョ耳石に取り込まれ、長期間安定的に残留した。しかしAlやFeでは濃度依存性は認められなかった。 2.希釈海水で飼育したキンギョの耳石へのSrの取り込みは、環境水のSr濃度の絶対値ではなく、Sr/Ca比と相関が高かった。 3.耳石のSr/Ca比は、飼育水温と正の相関を示し、性成熟雌では減少した。また石灰化速度が小さい耳石ほど比は高かった。 4.ニジマス小嚢標本を用いた実験から、血液Caは細胞内輸送により小嚢膜を通過し、耳石側へ輸送されることが分かった。この場合、CaはCaチャネルを介して細胞内に流入し、Ca^<2+>-ATPaseおよびNa^+-Ca^<2+>交換体の作用により耳石側へくみ出された。 以上の結果から、耳石に取り込まれた微量元素(Srなど)は長期間安定的に残留するので、履歴情報解析に利用可能なことが確認された。しかし耳石のSrは種々の要因により変わり得るので、データの解析には注意を要することも判明した。今後は、本研究で明らかになった耳石へのCa輸送様式を参考にして、微量元素がどのような過程をへて内耳に至り、耳石に取り込まれるのかを解明することが必要がある。
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